治療

歪んだ認知の改善-統合失調症の認知行動療法

近年統合失調症に効果のある精神療法として注目されているのが、認知行動療法です。

認知行動療法は、もともとはうつ病や不安障害の治療として行われてきましたが、統合失調症の人にも有効ということが実証され、現在は統合失調症の治療ガイドラインでも推奨されています。

陰性症状(集中力や持続力の低下など)に効果があるといわれていますが、持続する陽性症状(幻聴や妄想など)にも効果が期待できます。

今回は認知行動療法についてご紹介します。

統合失調症の治療について不安がある人達の役に少しでもたてたら嬉しいです。

認知行動療法とは?

認知行動療法とは「認知療法」と「行動療法」の二つが合わさった治療方法です。

極端な考え方や認知のゆがみ(認識の仕方)の修正をはかりながら、問題を解決していきます。

認知行動療法を進めていくと、集中力や持続力の低下、自主性・意欲の低下、感情の表現がうまくいかないなどの陰性症状の改善がみられます。
また持続する陽性症状(幻聴や妄想など)にも、効果があると言われています。

上手く認知行動療法をおこなう事ができれば、たとえ幻聴や妄想があっても必要以上に気にすることなく生活をすることができます。

認知のゆがみの例

認知のゆがみとは下記のような考え方です。

  • 1回悪いことがおこると「いつも上手くいかない」と考える
  • 自分は何をやってもまともにできない、他の人より劣っていると考える
  • 最悪の事態を常に考え、高い確率で自分におこることと考える
  • 何か悪いことが起こったときに、責任は全て自分にあると考える
  • 良いことがあっても「たまたまだ」と否定的に考える
  • 根拠がないにもかかわらず、何事も悲観的に捉え勝手に推測をして判断する
  • 全てのことにおいて「白か黒か」「善か悪か」と極端に考える
  • 物事を極端に大きく考えたり、逆に極端に小さく(ささいな事と)考える
  • 自分はいつも誰かに見られていると考える
  • 何かするときに「絶対に~するべき」もしくは「絶対に~すべきではない」と考える
  • 理由もなく「~に決まっている」と決めつける考え方になる
  • 1つのことにだけ強くとらえられる
  • ささいな事からいつも否定的な考えになる

認知行動療法の基本-3つのバランス

認知行動療法では認知(考え)・行動・感情(気分)の3つの要素が基本になります。
この3つの要素が正三角形のようにバランス良くとれるように進めていきます。

なぜなら一部分だけにとらわれていると、人間関係や仕事などで失敗したときにその原因がどこにあるか分からなくなるためです。

この3つの要素に着目し、考え方(認知)を深く掘り下げて、自動思考(自然と浮かんでくるか考えやイメージ)を自覚して、悲観的な考え方を修正するきっかけを探します。
この自動思考を掘り下げていくことで、その人の考え方の癖や価値観が分かってきます。

考え方の癖や価値観は、ゆがんだ認知や不適切な行動の両方に影響しています。
そのため、考え方の癖や価値観を変えて(修正して)いくことで、物事に対する受け止め方や行動が変わってきます。

具体的な進み方は下記の通りです。

認知行動療法はその人が持つ認知(考え方や価値観)を変えるのが目的ではなく、あくまでも認知(考え方や価値観)の側面から症状改善と問題解決のアプローチをしていきます。

認知行動療法の進め方

認知行動療法は担当医と統合失調症の話し合いが中心で、週に1回を15~20回ほど行います。
ただし、治療の進み方によって延長する場合もあります。

認知行動療法では担当医との面接で話し合ったことを実生活で検証しながら、認知の修正をはかることが重要です。

具体的な方法は

①統合失調症の人の悩みや問題点、長所などをふまえて治療方針を決める。

②治療方針に沿って、情報を共有しながら面接を進めていく。

③毎日の生活を振り返り、活動内容を次の3つに分類する。

  • 優先的におこなう必要のある活動
  • 日常的におこなう決まった行動
  • 自身が楽しめるまたはやりがいを感じる活動

④3つに分類した行動を徐々に活性化させていく。
自身が楽しめるまたはやりがいを感じる活動を増やしていくことは治療を進める上で効果的です。

⑤自動思考に焦点を当てて「なぜそう思うのか」を一緒に検証することで、考えの極端な偏りや認知のゆがみを修正していく。

⑥治療全体を振り返り、変化した点とその方法を確認する。

⑦再発防止のために、今後の課題や症状が悪化した時の対処法について話し合う。

上記①~⑦をおこなっていき、統合失調症の症状(幻聴や妄想など)を客観的に捉えられるように働きかけて症状の改善と問題の解決を目指します。

今回は認知行動療法についてご紹介しました。

認知行動療法を通して何事にも悲観的になり過ぎず、かといって楽観的にもなり過ぎず、柔軟で現実的な考え方をして物事をとらわれていけるように、少しずつでも変わっていけたらと思います。

今回の記事が統合失調症の治療を受けている人達の役に少しでもたてたら嬉しいです。

統合失調症を学ぶのにおすすめの本を一覧にしました。
おすすめ書籍一覧:統合失調症についてを参照してください。

統合失調症の人と家族が少しでも穏やかに過ごせますように。それではまた。

同じ悩みを抱える人との交流の場「家族会」